私は2011年から、子ども向けの教育現場に携わってきました。 最初の舞台は、アメリカの音楽教室。3歳〜14歳の多国籍の子どもたちに向けて、英語でのグループレッスンや訪問型のプライベートレッスンを合わせて約2,500回行いました。日本語の通じない環境で、異なる文化や性格を持つ子どもたちと向き合う中で、私は“教える技術”だけでなく、 「どうすれば心が通じるのか」を日々試行錯誤しながら学びました。 この経験は、今でも私にとって大きな財産です。
その後、結婚を機にドイツへ移住。
幼児教育の現場が忘れられず、日本のある企業にて日本人の子どもたちに向けたオンライン英会話を約1,500回担当しました。さらに、ジャカルタ移住後は自ら英会話&音楽スクールを開校し、こちらでも約1,500回のレッスンを実施。駐在員家庭の子どもたちを対象に教える中で、「日本の子どもたちが異文化にどのように向き合っているのか」を深く学ぶことができました。 そして帰国後、ドイツ人の夫Ken Rangkuty、アメリカ人ディベロッパーElliott Fiedler とともに、Eigopop(エイゴポップ)を立ち上げ、 オリジナル教材とアプリを開発しながら、これまでに約5,000回以上のオンラインレッスンを行ってきました。
加えて、講師のトレーニングやレッスンモニタリング、カリキュラム開発にも深く関わってきました。 こうして、累計1万回を超える自身のレッスンと、同数近くのモニタリングを通じて出会った多くの子どもたち・保護者の方々との交流のなかで、私は一つの確信にたどり着きました。
子どもたちにとって“良い先生”とは、ただ英語を教える人ではありません。 ご家族に信頼され、子どもの心に寄り添い、 一人ひとりの個性を大切にしながら、子どもの目線でわかりやすく教材を紐解いてくれる人。 「できた!」「伝わった!」という喜びを、心から一緒に喜べる人。 このブログでは、私自身の経験をもとに、子ども向け英会話の先生として本当に大切なことを、 技術面と心構えの両方から、皆さんと共有していきたいと思います。
英語力を伸ばす9つのコツ
「良い先生」とは、英語力が高いだけの人ではありません。 子どもたちの五感や感情を活かしながら、『英語が自然に身につく環境』をつくれる人です。 ここでは、私がこれまでのレッスン経験から大切にしてきた、英語力を伸ばすための“技術”=ティーチングスキルをご紹介します。 オンライン英会話の先生には有料級の実践ヒントになっているので、ぜひメモを取りながら取り入れてみてくださいね!
1. 視覚と動きで、イントネーションを「体で覚える」
たとえば「banana」という単語。 “バナナ”ではなく「バナーナ」と言いたいとき、手を上から下に動かしながら “banana” と発音すると、自然とリズムと音が体に残ります。 これはEigopopの 「ジェスチャーde発音」 というメソッドで、視覚・聴覚・身体感覚を組み合わせたアプローチです。 これは「マルチモーダル学習(視覚・聴覚・動きなど複数の感覚を組み合わせる学び)」にもとづいた、効果的な発話トレーニングです。
2. 文法用語は使わずに、発音もしっかりと
たとえば「過去形・未来形」という言葉。お子さんの中には、日本語でもまだ時制を理解するのが難しく、この堅苦しい言葉でちんぷんかんぷんになってしまいます。 「明日のことを言う時は、WILL がつくよ」とか、「昨日のことを言う時は、GO が WENT になるんだよ」と、わかりやすく言い換えてください。 また、発音を教えるときも、「『R』の発音は舌が上につかないよ!」ではなくて、「お口の中にマシュマロをポンポンと2つ入れてみて!それで『ル』って言ってみよう!」といった、お子さんがイメージしやすい表現に変えると効果的です。
3. 音楽とリズムで「フレーズまるごと」覚える
単語ではなく、“フレーズごと”覚えるのが英会話には大切です。
- 「My birthday is on...」といったフレーズでは、音節ごとに4回手を叩きながら練習すると、“on”を忘れにくくなります。
- 「It’s a pen.」なら3拍。「a」が抜けてしまう子にも効果的です。 また、メロディーにのせて言うだけで、イントネーションごと覚えることができるため、Eigopopでは「カラオケde英会話」のスタイルを多く取り入れています。
4. ジョークや語呂合わせで、忘れない仕掛けをつくる
子どもたちはユーモアで覚えるのが大得意。
- 「It’sは天気の前にいっつも付くよ!」
- 「Fridayはフライを食べる日だから“フライデイ”!」 こうしたニーモニック(記憶に残す“語呂合わせ”の工夫)をうまく取り入れると、自然に英語が記憶に残っていきます。
5. 繰り返し=記憶の定着をつくるカギ
一度で完璧を目指さず、「くり返し」こそ最強の学習法です。
- 同じフレーズで、単語だけを変えて繰り返す発話練習
- フリートーク中に出てきた単語を、文で再度使うことで定着 「おもしろい!またやりたい!」と思わせるのも技術のひとつです。
6. 毎回、「ひとつ持ち帰らせる」ことを意識
単語だけでなく、“使える文”を持ち帰らせるようにしましょう。
❌「宿題はmother」
✅「宿題は “She is my mother.” で覚えてきてね」
このように、「フレーズで覚える」ことが、英会話に必要な感覚を育てていきます。
7. 遊び心で集中力アップ!
集中力が続かないお子さんや、ちょっと疲れていそうなときは、レッスンに遊び心を取り入れてみましょう。
「先生がくしゃみしたら、3秒以内に“Bless you!”って言ってね!」
→ 突然の“くしゃみ”が、ふとした瞬間に子どもの集中を呼び戻します。
また、できるだけ実際のモノを使って英語を学ぶことも、集中力の維持に効果的です。
「I have a black ruler!」と文房具などを手に取って言うことで、リアルな体験と言葉が結びつき、理解と記憶も深まります。
8. 泣いてしまったときの「意外な対応」
泣いているお子さんには、意外性のある声かけや見せ物で気持ちを切り替えます。
- 「〇〇ちゃんって、可愛い〜ね〜!」とあえて別軸の会話を。
- 先生の変な顔写真を見せて気を逸らす。
- 間違えて泣きそうな子には、「ここは間違えてOKな場所だよ!」と先に安心させておくのが効果的です。
9. 目指すは「英語だけ」のやりとり
最終的には、日本語に頼らず英語だけで通じる関係をつくることがゴールです。
もちろん、使う語彙やスピードは子どもに合わせて調整。 そして、優しくフレンドリーな“お姉さん・お兄さん”のような存在として、 敬語ではなく、温かい日常の言葉で話しかけていきましょう。
テクニックは、すべて「その子の心に届くための手段」です。 無理に詰め込むのではなく、その子のペースで、“できた!”を一緒に喜べる関係をつくっていくことが、 先生にとっても、子どもにとっても幸せな英会話の時間につながります。
選ばれる先生 vs. 継続されにくい先生
これまで数多くの生徒・保護者と接してきた中で、“リクエストが絶えない先生”と“一度きりで終わってしまう先生”の違いは、驚くほど明確です。 以下に、その違いを生むポイントをご紹介します。
目を見て話す・聞く
その子を一人の個性ある人間として受け止める姿勢が大切です。 例)Eigopopでは、生徒と先生の目線が自然に合うようにモニターの配置を調整しています。画面越しのやりとりだからこそ、下を向いてメモを取るなど目線を外さないよう、講師には特に意識してもらっています。
声のトーンやテンポ
安心感と高揚感をつくり、飽きさせないレッスン展開を。 例)とくにレッスン冒頭のあいさつでは、明るい声で始めることで子どもの不安感を和らげることができます。また、テンポよく進む楽しいレッスンにより、集中力が続き、「もう終わり?」と感じるほどの没入感が生まれます。
ゆっくり・はっきりした発音
バイリンガル講師による自然なリエゾン(音のつながり)は、初心者には聞き取りにくいことも。生徒のレベルに合わせたスピードで話すことを常に意識しましょう。
その子の経験に合った内容で例文をつくる
例)「このあと公園に行くんだ」と言っていたら、"Let’s go to the park!" という例文を使うことで、生きた表現として記憶に残ります。
理解できない語彙は使わない
伝わる喜びこそが英語学習のモチベーションです。 講師側が慣れてくると、英語の独り言をつい口にしてしまいがちですが、無表情でそれを言ってしまうと、子どもにとっては不安要素になります。 意味のない独り言や、エゴからくる発言は控え、生徒の耳が英語に慣れるための「意味のある発話」に絞ることが大切です。
沈黙を恐れないが、放置はしない
子どもが考えているようであれば、にっこり笑って静かに待つ。それだけで、子どもは安心して思考を進めることができます。
「今日の一期一会」に本気で向き合う
子ども一人ひとりの未来に本気で貢献したい――その“思い”がにじみ出る先生こそが、自然とご家庭から信頼され、長く指名される先生です。 バイリンガル講師の皆さんは、英語スキルを活かしたいと願っていますが、「子どもたちの未来のために貢献したい」という気持ちが伴っているかどうか。それが、この仕事に向いているかどうかの大切な軸だと感じています。
Eigopopの先生が長く続けてくださっている理由
それは、「日本の子どもたちの未来に、本気で貢献したい」という“思い”が自然とにじみ出る方だけを、私たちが講師としてお迎えしているからです。 どれだけ英語が話せても、どれだけ子どもが好きでも―― 「テクニック」だけでなく、「心のあり方」を大切にしているか。 それが、Eigopopが講師採用において最も重視していることなのです。
英語を教えること=ことばの「奥行き」を育てること
英語を教えるということは、単語やフレーズの“表面”を覚えさせることではありません。 その言葉の背景にある文化や感情、価値観までも一緒に伝えることが、本当の意味での「ことばの力」を育てることにつながります。
感情のこもった表現を体感させる
“Yeah!” “Oh no!” “High five!” といった表現は、単なる音ではなく、感情そのものです。 Eigopopでは、毎回のレッスンで「ヒントゲーム」というアクティビティを行っています。これは、その日に習った単語を英語のヒントだけで当て合うゲームです。 正解したときには先生と一緒に “Yeah!” と喜び合ったり、「It’s close!(おしい!)」と声をかけたり、「Hint, please!」と自分からヒントを求めたりする中で、英語ならではのオープンな感情表現を自然に身につけることができます。
ご家庭ごとの背景に合わせたレッスン調整
英語を学ぶ目的や、レッスンに期待する成果はご家庭によってさまざまです。 たとえば、半年後に海外移住を予定しているご家庭や、海外駐在ファミリーなど、できるだけ早く英語を話せるようにしたいというケースもあれば、 すでに海外の学校に通っているお子さんが、日本語で文化的背景や意味をしっかり理解したいというご要望もあります。 Eigopopでは、生徒一人ひとりの背景情報を先生と共有し、英語と日本語のバランスや内容レベルを柔軟に調整しています。
「考えを言葉にする力」を育てる
日本には「恥の文化」があり、子どもたちは「間違える=悪いこと」と思ってしまいがちです。 そのため、自分の考えを言葉にすることを苦手に感じるお子さんも少なくありません。 Eigopopでは、そうしたお子さんが安心して発話できるよう、「NO(ちがう)」という否定的な言葉は使わず、「それも悪くないね!」という肯定的なフィードバックを意識しています。 そのうえで、「でももっといい言い方があるよ!」と伝えて、正しいフレーズを繰り返してもらい、“言い直し=成功体験”となるように工夫しています。 実際の英会話では、間違えることよりも、沈黙してしまうことのほうが大きな壁になります。 だからこそ、「自分の考えを、自分の言葉で伝える力」を育てることを、日々のレッスンで大切にしているのです。
オンライン英会話がもつ本当の意味
オンライン英会話は、単語や英文法だけを「学ぶ場所」ではありません。 もちろん、おうちで予習してきた単語を覚えているかどうか、緊張せずにそれを言えるかどうかといったチャレンジはあります。 けれども、Eigopopが目指しているのは、「ことばを通して、心を育てる」レッスンです。 先生には、次のような視点を常に意識していただいています。
想像力の種をまく場所
「〇〇ちゃんなら、こういうとき英語でどう返事をするかな?」という問いかけを大切にしています。 たとえば、Eigopopでは「コミックde英会話」のアクティビティを通して、生徒が物語の主人公となり、空の吹き出しにどんなセリフを入れるかを考えてもらう場面があります。 その子らしい言葉を探すことで、想像力や表現力が育ちます。
間違えても安心できる場所
間違えても笑われない、否定されない。 そんな環境だからこそ、子どもたちは自分から発言したいと思うようになります。 Eigopopではマンツーマンのレッスンのみを提供しています。 誰かと比べることなく、自分のペースで、自分の声で、自分の部屋から英語を学べることを大切にしています。
親以外の大人と心を通わせる場所
子どもたちにとって、親や学校の先生以外の大人と一対一で心を開いて話すという経験は、とても貴重です。 Eigopopの先生たちは、英語を教えるだけでなく、子どもたちの“もう一人のお兄さん・お姉さん”のような存在になることを目指しています。 その中で、共感する力や自分らしさを表現する力(非認知能力)が、少しずつ育まれていきます。
安心感を生むスモールトークの力
レッスンをただ「英語の時間」として終わらせないために、雑談(スモールトーク)の力がとても大切です。 たとえば、
- 先生がちょっとした失敗談をシェアする
- 「今日は〇〇を食べたよ!」と何気ない話をする
- 海外と日本の文化の違い(例:家の中で靴を履く、など)を紹介する
こうした会話が、子どもたちの世界を少しずつ広げ、英語を「コミュニケーション」として捉える第一歩になります。
先生の「あり方」が、子どもの未来をつくる
1万回以上のレッスンと、数え切れないほどの先生方との出会いを通して、私が強く感じていることがあります。
それは――
子どもは、“心”で学ぶ。
ということです。 どんなに素晴らしい知識やスキルも、子どもたちは「心から楽しく学んだこと」しか、本当の意味では覚えていません。
だからこそ、英会話のレッスンは、 ただ「英語を話せるようになるため」だけの時間ではないのです。
それは、
- 自分の気持ちや考えを、ことばで伝える力を育てる時間であり、
- 将来、もっと国際的になっていく世界で、どんな場所でも自分らしくいられる“耐久力”を育てる時間でもあります。
「ここは〇〇だから、こう言わなきゃ」ではなく、 「今の自分はこう思う。こう感じている。」と、 どんな言語でも自分のことばで表現できる子に育ってほしい。
そのために、私たち大人ができること――
それは、 子ども一人ひとりを、一人の立派な人間として尊重し、 寄り添う「声かけ」と「まなざし」を磨き続けることだと思っています。 子どもたちの未来のために、 どうか、一緒にこの道を歩んでいきましょう。 そして忘れないでください——「笑顔」と「笑い声」は、世界共通のことばです。 英語より先に、それを届けられる先生こそ、子どもたちの心を動かすのです。